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島崎藤村が見た山陰

山陰土産(島崎藤村)に描かれた山陰地方

「夜明け前」「破戒」などで知られる小説家・島崎藤村(1982~1943)が1927年(昭和2年)に、大阪朝日新聞から依頼を受けた藤村(当時56歳)は、息子の鶏二(当時20歳)を伴って、山陰本線に乗った旅に出ます。その12日間の様子が生き生きと描かれています。

山陰土産は現在本の形で読めるのは、「現代日本紀行文学全集 西日本編」ほるぷ出版で読むことが出来ますが、著作権が切れた作品などをネット上で掲載している「青空文庫」で読むことが出来ます。
↓これがアドレス
http://www.aozora.gr.jp/cards/000158/files/4710_19618.html

読み進みますと、昭和初期の山陰両県の様子や、さすが文豪・藤村が山陰の風情、風景、歴史を切り取ってみせる表現力にびっくりさせられます。例えば、山陰道を評して、

「東海道あたりの海岸に比べると、この山陰道はおもしろい對照を見せてゐる。こゝには全く正反對のものを見出す。一方に遠淺な砂濱があれば、こゝには切り立つたやうな岩壁がある。一方に高い土用波の立つ頃は、こゝには海の凪(なぎ)の頃である。一方に自然の活動してゐる時は、こゝには自然の休息してゐる季節である。」

と言っています。藤村は7月に訪れているので、冬の日本海を見ていないのですが、夏の山陰道を「自然が休息している季節」なんて表現するんです。

鳥取の浦富海岸を見たときに藤村は
「おそらく山陰道は、その地勢からいつても、東海道ほどに惠まれてゐないかも知れない。山陽道にもおよばないかも知れない。そのかはりこゝには他に見られない自然の特色があり、到るところに湧き出づる温泉があり、金、銀、鐵、石炭その他の鑛物を産する無盡藏の寶庫もある。折よく私達は日本海の靜かな時に來た。この自然が休息してゐる間に旅をつゞけなければならない」と記しています。

松江では皆実館に泊まっています。大橋のたもとにある南館から見た風景は
「この松江の宿で、私達は七月十四日の朝を迎へた。大橋は水に映つて、岸から垂れさがる長い柳の影もすゞしい。私達の眼にある光と影とで、朝の湖水らしくないものはなかつた。何を見ても眼がさめるやうであつた。」
と表現しています。すてきです。

松江から舟で境港、美保関、そして島根半島をぐるりと回って、佐陀川から南下して、皆実館へ帰ってくる半島めぐりの船旅をしています。惣津の漁村を沖から眺めて、
「そこは惣津(そうつ)といふ漁村で、隔日に通(かよ)つて來る岡田丸でも待つより外に、交通の便利も少いほどの邊鄙な土地と聞いた。私は曾て何處にも、こんな桃源めいた漁村を見たことがない。靜かに立ち登る煙、鷄の聲、すべてがいかにも平和な感じを與へる。さういふ私の想像して來た出雲浦海岸とは、もつと別の場所であつた。行く先の岬のかげに、こんな仙境が隱れてゐようとは、實に意外であつた。」

加賀の潜戸や、多古の七つ穴を興味深く眺めています。

松江の後、出雲大社に参って、一度は引き返そうかという思いに駆られながら、益田を訪れますが、そこで雪舟ゆかりの万福寺、医光寺を訪れ、柿本神社に立ち寄って、最後に津和野を駆け足で巡って、帰途につきました。

一連の旅の中で、古事記1300年にちなんでという訳でもありませんが、千鳥城から星上山を望んで、古代出雲に思いをはせた藤村は、
「こゝは古代の大陸との交通を想像させるばかりでなく、もつと古い神話にまで遡るなら、天地創造の初發の光景にまで、人の空想を誘ふやうなところだ。こゝは豐かな傳説の苗代(なはしろ)だ、おもしろい童話の作者でも生れて來さうなところだ。こゝは神祕なくらゐに美しい海が、その祕密をひらく若者を待つてゐる。新しい海の詩人でも生れて來さうなところだ。」
と記しています。「豊かな伝説の苗代」「秘密を開く若者を待っている」なんて、すごいですね。後々の、数々の古代出雲に関する遺跡の発掘を予言していたのかも知れません。
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